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かつて誰もが「芸術家」だった ~『うごくメモ帳』というゲームより

【その他】横書き

 この画像を知っている人は今もいるのだろうか。


 これはニンテンドーDSiのゲーム「うごくメモ帳」。通称「うごメモ」。DSiシリーズのゲームで、もともと備え付けてあった(つまり無料だった)。
 このゲームは2008年に配信が始まった。今から7年前、北京五輪の年である。
 

 「うごメモ」はアニメーションを描くゲームだった。自由度が高いので、アニメーションのパターンは無限。完成したアニメーションは「作品」と呼ばれていた。



棒人間VS棒人間 - YouTube
 この動画は「作品」をYoutubeに転載したもの。「棒人間」と呼ばれたジャンル。あくまでこれは数ある「作品」の中のほんの一例に過ぎない。


 作った「作品」は「うごメモシアター」に公開することができた。PC、携帯からは「うごメモはてな」というはてなのサービスで閲覧できた。どちらも無料。
 「作品」を描くためにカネは必要なかった。「作品」の公開にも必要なかったし、「作品」が人気を博してもカネは手に入らなかった。評価された「作品」には「スター」が付いた。「スター」とは、「はてなスター」のことだった。「うごメモ」のユーザーは
カネのために「作品」を描かなかった。彼らが最も重要視していたのはより良い「作品」を生み出すこと。「作品」例外なく「スター」で正当な評価を受けていた。


 「作品」を生み出す彼らは「作者」と呼ばれていた。
 彼らは人気な「作品」の模倣から始め、やがて個性的で革新的な「作品」を生み出していった。様々な分野で、様々な前衛表現が日々生まれていった。「作品」を描く誰もが「芸術家」だったのだ。
 報酬でなく純粋な評価を求めて「作品」を描いていた「芸術家」たち。利益ばかりを求めて大量生産、大量消費的なライトノベルが量産されて芸術的革新が停滞しつつあり、挙句の果てには、サカキバラの独白本を不謹慎にも出版する今日の出版業界とは正反対の世界だった。



 
 これは「RPG」と呼ばれるジャンル。先ほどの「棒人間」から分派したジャンルだった。1ドット単位でキャラクターを動かしており、「うごメモ」で最も精巧なジャンルの一つだった。

 しかし、「うごメモシアター」と「うごメモはてな」のサービスが2013年に終了し、「作品」の公開がほとんどできなくなってしまった。*1
 その後、「うごくメモ帳」は3DSのサービス「うごくメモ帳3D」に移行することになった。

 ところが、「うごくメモ帳3D」の投稿サービス「ワールドうごメモギャラリー」は有料制だった。さらに、サービスの質も「うごメモシアター」、「うごメモはてな」と比べて劣悪で、「うごメモシアター」、「うごメモはてな」の頃に活動していた「作者」の多くは姿を消してしまった。


 しかしときどき、かつての「作者」たちはかつての「うごメモ」を回顧して、Youtubeに「作品」を公開したり、漫画にしてブログに公開したりしているようだ。
 例えば、こんな具合に→http://hira.hateblo.jp/
 私も同じように、ときどき懐かしんだり、「またうごメモやろうかな」と思ってみたりする。というのも、私もかつて「うごくメモ帳」の「作者」の一人だったのだ。当時のユーザーネームは「FM795」。主に「RPG」を描いていた。2012年3月にはチェルノブイリ原発事故を扱ったドキュメンタリーを公開し、予想以上の反響をいただいたこともあった。

 「うごメモ」での経験は、現在の私の執筆活動に大きく影響を与えている。

*1:実際には「スドメモ」という非公式の投稿サービスが2015年現在もあるのだが国内の知名度は低い。