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金正日から金正恩へ――北朝鮮音楽の変貌に関する素人並の感想

【その他】横書き

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 最近は「北朝鮮音楽の研究」というブログを拝読させていただいている。
song-of-dprk.hatenablog.jp

 このブログは主に金正日時代の普天堡電子楽団旺載山軽音楽団などの名曲を和訳、解説している。あの「コンギョ」こと『攻撃の勢いで』もあるので是非覗いてみてはいかがだろうか。

 さて、若き金正恩が最高指導者の座に就いてから4年以上経過した。核実験やミサイル発射などの物騒なニュースは新聞の国際面を日々賑わすが、「北朝鮮音楽の研究」で紹介されているような、北朝鮮の音楽に関するニュースは比較的少ない。しかしながら、これは北朝鮮音楽の無価値を意味せず、むしろ逆である、と明言する必要がある。というのも、王朝を語る上でその特徴的な文化を知ることは避けられないのだ。特に、人民を統治する手段として文化を積極的に活用するという、20世紀全体主義の影響が色濃く残る北朝鮮はなおさらである。

 北朝鮮北朝鮮音楽を前面に押し出すようになってきたのは80年代からである。当時は金正日北朝鮮の芸術分野を積極的に指導しており、特に音楽は肝いりだった。「音楽は、人々を革命的に教育する強力な武器であり、党の思想活動の重要な手段」と金正日が自身の著作で表現したように、人民を統治するための手段として格別の意味付けがなされたといえる。これは金正恩においても変わらない。

 こうしたなか、金正日のもとに立ち上がった主な電子楽バンドは「普天堡電子楽団」と「旺載山軽音楽団」である。


통일무지개 統一の虹

Song "We Are Masters of the Farm" 우리는 농장의 주인

 北朝鮮音楽は「音楽の自主化」「音楽の現代化」「音楽の人民形式化」という3つの柱で構成される。特に金正日のもとの電子楽バンドは「歌詞」よりも「メロディー」が優先された。これは特筆すべき点である。
 
 一方、新指導者金正恩は新たな音楽バンドを立ち上げた。「牡丹峰楽団」と「青峰楽団」である。
 「牡丹峰楽団」は金正日の「普天堡電子楽団」を「発展的解消」させたバンドであり、KPOPさながらのセクシーアイドルとして一時期話題となった。

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 この北朝鮮らしからぬセクシーさは金正日時代の楽団とは大きく異なる。明らかに韓国のKPOPを意識したものだろう。

 続いて、「青峰楽団」は北朝鮮の既存のバンドやオーケストラから選抜されたものだが、この「青峰楽団」は美しい声楽を重用している。「朝鮮の声放送」で「青峰楽団」の新曲を聴くと、金正日のころのメロディー重視とは変わって声楽重視(=歌詞重視)となったことがよく伝わった。「DPRK-POP」と呼ばれて数多くのファンを生んだ「普天堡電子楽団」のような日本での人気ぶりはあまり期待できない。「青峰楽団」を楽しむには朝鮮語の知識が必要だろう。


青峰楽団 愛します

青峰楽団 戦争の3年間

 また、金正恩のもとの北朝鮮音楽の変貌ぶりは楽団だけではない。「舞台演奏重視」もその一つである。

 次の動画はかの有名な『コンギョ』の「普天堡電子楽団」による演奏である。

 アンコール演奏時に観客の手拍子が聴こえるが、曲のリズムにあっておらず、すぐにちりぢりとなってしまう。おそらく観客の自発的なものであろう。

 次の動画は「牡丹峰楽団」による『近衛部隊自慢の歌』である。

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モランボン楽団  近衛部隊自慢の歌  日本語字幕

 金日成の映像の登場シーンとなると観客が一斉に万雷の拍手を、そして毅然とした手拍子を送った。おそらく事前に仕込まれていたと思われる。

 この「舞台演奏重視」は金正恩指導下の北朝鮮音楽の特徴的出来事だと私は考えている。

 良かれ悪かれ、こうした音楽形式の変化は金正日から金正恩への政治変革と、それにリンクした「音楽政治」の変化を端的表している。それぞれの指導者はそれぞれの「個性」を求め各楽団に様々な指示をしていることだろう。

 北朝鮮という20世紀全体主義の影を落とす国家を知るためには、政治的なニュースだけでなく、こうした文化的出来事をつぶさに調べ上げねばならない。北朝鮮の「文化」こそ「政治」なのである。

 日本ではインターネットを通してこうした北朝鮮音楽のマニアが日々着々と増えていることは言うまでもない。北朝鮮的に言えば、これは北朝鮮による「教化」であろうが、しかしながら日本のマニアたちは、金日成語録を暗記せず、北朝鮮の体制を支持せずに北朝鮮音楽を親しんでいるあたり、現代日本人の「非政治性」、つまり政治興味の欠如を示唆しているのかもしれない。